筋緊張が引き起こす頭痛と、筋肉を柔らかく解すことの有効性
私たちの身体は日常生活の中でさまざまなストレスを受けています。長時間のデスクワーク、スマートフォンの操作、不良姿勢、精神的な緊張——これらの要因が重なって筋肉が硬くなり、血行が悪化し、結果として「筋緊張型頭痛(Tension-Type Headache, TTH)」を引き起こすことがあります。
このタイプの頭痛は、世界中で最も一般的な頭痛の一つとされ、日本人の約20%以上が経験しているとも言われています(佐藤ら, 2010)。本稿では、筋緊張が引き起こす頭痛のメカニズムと、それに対して筋肉を柔らかく解すアプローチがどのように有効かを、最新の研究を踏まえて解説していきます。
緊張型頭痛とは何か?
緊張型頭痛は、頭の両側に「締め付けられるような痛み」が持続することが特徴で、通常は軽度から中等度の痛みが数十分から数日間続きます。偏頭痛とは異なり、吐き気や視覚障害などの随伴症状はなく、身体を動かすことで痛みが悪化することも少ないです。
国際頭痛分類第3版(International Classification of Headache Disorders, 3rd edition)によると、TTHは主に「持続的な筋緊張」と「心理的ストレス」に関連しているとされています(Headache Classification Committee of the IHS, 2018)。
筋緊張と頭痛の関係性
筋緊張型頭痛の原因のひとつとして注目されているのが、頚部や肩、頭部の筋肉の過緊張です。特に「僧帽筋」「胸鎖乳突筋」「後頭下筋群」といった部位の硬直は、頭痛の発生と強い関連があると報告されています(Fernández-de-las-Peñas et al., 2007)。
これらの筋肉が硬くなると、血流が阻害され、筋肉内の代謝物質(乳酸やブラジキニンなど)が蓄積されやすくなります。この代謝物質が神経を刺激し、痛みのシグナルが脳に伝わることで頭痛が生じるのです。
さらに、筋肉の緊張は痛覚過敏(central sensitization)を引き起こし、慢性的な頭痛に発展するケースもあると報告されています(Cathcart et al., 2009)。
筋肉を「解す」ことの有効性:研究と実践
筋緊張を和らげるために有効な方法の一つが、筋肉を「解す(=柔らかくする)」ことです。これには、ストレッチ、マッサージ、物理療法、運動療法、呼吸法などが含まれます。
マッサージ療法の効果
2011年のランダム化比較試験では、緊張型頭痛を抱える患者に対して、週2回、4週間のマッサージ療法を行ったところ、頭痛の頻度・強度ともに有意に減少したと報告されています(Moraska et al., 2011)。特に、後頭下筋群や頸部のトリガーポイントへのアプローチが有効とされています。
ストレッチと筋弛緩法
ストレッチは、筋緊張を物理的に和らげるだけでなく、自律神経にも良い影響を及ぼすとされています。2015年の研究によると、簡単な頸部ストレッチを毎日続けたグループは、緊張型頭痛の回数と強度が大きく減少したという結果が出ています(Calandre et al., 2015)。
また、漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation, PMR)も、心理的ストレスの緩和と共に、筋緊張の軽減に寄与することが明らかになっています(Nestoriuc & Martin, 2007)。
筋肉を解すための日常的な習慣
日常生活の中でできる予防・改善策として、以下のような習慣を取り入れることが勧められます。
定期的なストレッチ
特に首、肩、背中のストレッチを1日数回行うことで、筋緊張の蓄積を防ぐことができます。
正しい姿勢を意識する
猫背やうつむき姿勢は、首や肩の筋肉に負担をかけます。モニターの高さや椅子の高さを調整することも大切です。
深呼吸・呼吸法の導入
腹式呼吸や瞑想を取り入れることで、交感神経の過活動を抑え、筋肉のリラックスを促します。
マッサージやセルフケアグッズの活用
フォームローラーやテニスボールを使ったセルフマッサージも有効です。筋膜リリースを意識すると効果が高まります。
まとめ:筋肉を柔らかく保つことの重要性
筋緊張による頭痛は、誰にでも起こり得る身近な不調ですが、その原因の多くは「生活習慣」にあります。そして、その改善には「筋肉を柔らかく保つこと」が非常に重要です。
マッサージやストレッチ、呼吸法といった身体への直接的なアプローチは、筋肉の緊張を解くだけでなく、脳や神経系にもポジティブな影響をもたらします。筋肉が柔らかくなることで血流が改善され、痛みの悪循環が断ち切られるのです。
現代社会において、ストレスや身体の使い過ぎから逃れることは簡単ではありません。しかし、「自分の筋肉の状態に目を向ける」ことは、頭痛予防の第一歩となります。日常のちょっとしたセルフケアが、慢性的な頭痛の改善につながるかもしれません。
参考文献
Fernández-de-las-Peñas, C., et al. (2007). Trigger points in the suboccipital muscles and forward head posture in tension-type headache. Headache, 47(5), 662–672.
Moraska, A., et al. (2011). Therapist-assisted massage therapy for primary headache: a randomized controlled trial. Annals of Behavioral Medicine, 42(2), 277–284.
Calandre, E. P., et al. (2015). Effectiveness of a stretching program for the management of tension-type headache. Journal of Headache and Pain, 16(1), 27.
Cathcart, S., et al. (2009). Central mechanisms of stress-induced headache. Cephalalgia, 29(3), 285–295.
Nestoriuc, Y., & Martin, A. (2007). Efficacy of biofeedback for migraine: a meta-analysis. Pain, 128(1–2), 111–127.
Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). (2018). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia, 38(1), 1–211.
佐藤由美, 他. (2010). 日本人における一次性頭痛の有病率と臨床特徴に関する研究. 日本頭痛学会誌, 37(1), 1–8.